専修大学国際コミュニケーション学部日本語学科

専大日語?コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2024年10月:開催報告「専大日語の夏フェス 2024」

毎年恒例になった、夏休み最後の企画「専大日語の夏フェス」。 専大日語の各ゼミナールで実施している研究を一堂に集めて発表し、全体でシェアしようという企画です。 今回で3回目の開催となった夏フェス、今月のコラムは、その開催報告です。

9月17日(木)の夏フェス当日、90名ほどの学生+教員が集まりました。 今回披露されたのは、6件の「口頭発表」と6件の「ブース発表」。 プログラムは、以下の通りです。

口頭発表?ブース発表とも、質の高い発表と、活発な質疑応答が行われ、大盛況の一日となりました。(タップ?クリックで拡大します)

以下、当日の発表について、内容をまとめておきます。


「指示詞について」(高橋ゼミ、S.Y.さん)

日本語の指示詞(コ系?ソ系?ア系)の使い分けについて、「なわばり」の観点から分析しました。 佐久間鼎(1951)『現代日本語の表現と語法』、神尾昭雄(1990)『情報のなわ張り理論』で示された「なわばり」の考え方を使って、 (1) 日本語話者は指示詞をどのように使い分けているのか、 (2) なぜ日本語には「コ系?ソ系?ア系」という3つの指示詞があるのか、という問いに挑みました。 英語の指示詞(this/that)との比較も行いました。


「日本語学習者に向けた絵本対象レベルの検討 ―絵本テキストのリーダビリティの観点から―」(丸山ゼミ、H.A.さん)

「子ども向けの絵本の対象年齢とテキストの読みやすさは比例するのか」というリサーチクエスチョンを立て、 絵本の読みやすさ(リーダビリティ)を計量文体論的に分析した研究です。 50冊の絵本に含まれる本文部分をテキストデータとして収集しコーパス化、 1冊あたりの文字数、和語?漢語?ひらがな率、TTR、MVR、語彙の難度などを分析しました。 「日本語教育の現場で多読に使える本が少ない」という問題意識に基づき、日本語教育への応用も視野に入れています。


「読書感想文の意義とその指導」(山下ゼミ、S.N.さん)

国語教育の中でどうしても苦手意識が持たれがちな「読書感想文」。そこで、 (1) 読書感想文の存在意義、 (2) 読書感想文の現状の指導と効果的な指導法、 (3) 読書感想文に代わる、より学習の意義を感じられる課題案とその問題点、という3点について論じました。 複数のコンクール入賞作文を分析し、「読んだ後の心境の変化」「自身の環境や考えとの共通点?共感」という二つのパタンに二極化できることを示しました。 また、「言語活動としての読書」という観点から、今後の考え得る課題について論じました。


「意外と面白い!? 続け字の世界 ―伊勢物語を用いた卒論中間発表―」(斎藤ゼミ、T.K.さん)

古典籍の資料(伊勢物語 嵯峨本)に見られる「連綿活字」について、どのような文字が連綿されているのか、その傾向を見つけ出そうとする研究です。 片桐洋一編(1981)『伊勢物語 慶長十三年刊 嵯峨本 第一種』の33ページ分からサンプリングし、ページに出現した仮名全体を集計対象としました。 その結果、大半の場合は単語の内部で連綿が観察されるものの、まれに単語をまたいで連綿する場合も見られました。 3285単位のうち、単語をまたいでの連綿は218箇所、そのうち後項が助詞のものが大半でした。 また、後項が助詞ではなく助動詞の場合や、名詞の連続が連綿する場合、「と+問ふ」が連綿する場合などのパターンも観察されました。


「読書指導の研究」(山下ゼミ、K.K.さん)

小中学校時代、「本を読むこと」の明確な重要性を感じたことがなかった、という自身の体験をもとに、 「読書活動の現状と課題」、「読書活動推進への施策や取り組み」、 「私が思う読書の重要性と在り方」といった問題に取り組んだ研究です。 読書指導を「分け隔てられた知の世界に「学びの連続性」を作り上げていく営み」と捉えたうえで、 国語科の読書指導の役割を再認識する必要があると論じました。 また、読書活動の実践例として、読み聞かせ、ストーリーテリング、 ブックトーク、ビブリオバトル、本の帯?ポップ作りなどを挙げ、 自身が体験した教育実習校での取り組みを紹介しました。


「独話スペシャリストのフィラー観察」(丸山ゼミ、C.I.さん、R.N.さん)

『日本語話し言葉コーパス』(CSJ)に出現したフィラーの傾向をまとめたうえで、 「独話のスペシャリスト」が実際に発したフィラーの使用傾向と比較した研究です。 ここでの「独話のスペシャリスト」は、「丸山岳彦教授」と「高橋雄一教授」の二人(笑)。 両教授の講義音声を録音し、出現したフィラーの分布を比較したところ、 両者の間で使われているフィラーの傾向が大きく異なることが観察されました。 CSJでの集計結果とも大きく異なることから、フィラーの使用は個人差が大きいことが分かりました。


「〇〇さんの一日~コロケーション調査結果に基づいた行動」(丸山ゼミ、R.I.さん、Y.I.さん、R.F.さん、K.O.さん、A.M.さん)

発表タイトルの「○○」には、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)に出現した苗字のうち、 最も多かった苗字が入ります(みなさん、何だと思いますか?)。 ○○さんが朝起きてから夜帰宅するまでの行動を、 「○○時に起きる」「○○を食べる」「○○に乗る」「○○を買う」といった形でクイズにしました (それぞれ、○○に入りやすい名詞を当ててみてください)。 BCCWJから獲得したコロケーション(語と語の組み合わせ)を使って、人の平均的な行動を明らかにしたと言えるかもしれません。


「スポーツに関するコロケーション」(丸山ゼミ、N.K.さん、S.K.さん)

特にスポーツに関する話題を中心に、BCCWJからコロケーション(語と語の組み合わせ)を獲得して分析しました。 「ユニフォームを○○」「ルールを○○」「○○を蹴る」「○○を投げる」では、○○にどんな動詞?名詞が入りやすいでしょうか。 「バットを○○」と「ラケットを○○」では、○○に入りやすい動詞の傾向は変わるでしょうか。 「○○を打つ」で圧倒的に多い名詞は? 専大日語の授業「日本語の語彙?意味」で学んだ類義語の意味分析の手法も交えて、 類義語の観点から見たコロケーションの分析結果が紹介されました。


「「名詞」におけるコロケーション調査」(丸山ゼミ、T.M.さん、M.I.さん、C.I.さん、Y.H.さん)

生物、食物、飲物、身体の一部、乗り物、毛、アクセサリー、というジャンルを設けて、各ジャンルの 代表的な名詞を中心にコロケーションを分析しました。 「猫を○○」と「犬を○○」の○○に入る動詞、どちらも1位は「飼う」ですが、では2位と3位は? 「電車が○○」と「バスが○○」、「出る」と「走る」はどちらに入りやすい? 「髪を / 目を / 口を / 腕を / 手を / 胸を / 腹を / 足を ○○」、 それぞれ○○に入りやすいのはどのような動詞でしょうか? 実際に言葉が使われている実態は、母語話者でも分からないものです。 コーパスを使った客観的な分析として、優れた実践例でした。


「王ゼミの活動紹介、ラジオ制作について」(王ゼミ、M.H.さん)

「日本語教育」と「音声研究」をテーマとする王伸子ゼミナールでの活動を紹介する発表でした。 Praat、Audacity、KH Coder、Wavesurfer などのツールを利用して、音声学の基礎から実践的に学んでいます。 また、独自のラジオチャンネル「クマオーンチャンネル」をstand.fmで公開中。 台本の執筆、トークの収録、音声の編集など、ラジオ制作の役割分担の中身を紹介してくれました。


「アニメキャラの喋り方から分析するキャラクター性の違い」(王ゼミ、S.H.さん)

「声が相手に与える印象を探る」という観点から、アニメキャラの喋り方が視聴者にどのような印象を与えているのかを探ろうとする研究です。 声のトーン、ピッチ、速度、感情表現がセリフの受け止め方に及ぼす影響、視聴者の認識や感情反応に与える効果を検証しようとしています。 役割語に関する先行研究や、声の質が聞き手に与える印象に関する先行研究を整理したうえで、 今後アンケートによってテキストと音声の印象調査を行う計画が示されました。


「日本語教育実習Cについて」(王ゼミ、M.S.さん)

2024年2月、「日本語教育実習C」の科目でカナダに教育実習に行った報告でした。 サイモンフレーザー大学、ブリティッシュコロンビア大学、バンクーバー日本語学校?日系人会館、キラーニーセカンダリースクールなど、 多くの場所で見学?実習を実施してきました。 サイモンフレーザー大学での実習の様子は、YouTube上の動画で紹介されています。 後半は、今後の研究計画が示されました。テーマとして「アニメの発話のナチュラルさ」を挙げ、 ナチュラルに感じられない発話を抽出して、発話速度、ポーズ、イントネーションについて分析を進めていく計画が示されました。


以上、「専大日語の夏フェス 2024」の開催報告でした。

夏フェスでの発表をこうして並べてみると、専大日語の守備範囲の広さに気づきます。 日本語学の基礎分野(音声、表記、語彙、文法)から応用領域(歴史、社会、教育、情報処理)まで、実に幅広いテーマがカバーされていますね。 (同じことは、昨年度の冬フェスの紹介記事でも書きました)。 みなさんが幅広いテーマで研究を進めてくれているのは、教員たちにとって本当にうれしいことです。

専大日語では8つのゼミが展開されていますが、実際には、ゼミ同士の横のつながりがあまり多くないのが現状です。 今回の夏フェス、「隣のゼミでは何をやっているんだろう?」という疑問を解消し、お互いに刺激を与えあう、よい機会になったのではないかと思います。 このような機会を通じて、専大日語のみなさんが切磋琢磨しながら、自らの学びを深めていってくれることを期待しています。

また、特に今回は、多くの1年生が参加してくれていたのが印象的でした。 この10月からは、来年度に所属するゼミを選ぶ「ゼミ選択」の手続きが始まります。 専大日語では、他大学より早く、2年生から専門ゼミが始まります。 卒業までの3年間、自分がどのゼミに入って研究を進めていきたいかを考えるきっかけになったのではないかと思います。

次回は、2025年1月18日(土)、「専大日語の冬フェス 2025」を開催する予定です。 昨年度の冬フェスと同様、 卒業論文の成果を中心に、たくさんの発表が集まることを楽しみにしています。

4年生のみなさん、卒業論文の執筆、がんばってください。〆切は12月16日(月)の17:00。みなさんの健闘を期待しています!(^^)

丸山岳彦

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