専大日語?コラム
専大日語の教員による、月替わりのコラムです。
2024年9月:国際日本語教育大会(ICJLE)に参加しました
ICJLE
2024年7月30日~8月1日の3日間、 国際日本語教育大会(ICJLE:The International Conference on Japanese Language Education) に参加し、口頭発表を行いました。 日本、韓国、中国、香港、台湾、インドネシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、米国、ヨーロッパという、世界の日本語教育分野の学会?研究会?教師会などの加盟団体が「日本語教育グローバル?ネットワーク」を組織しています。 グローバル?ネットワークが最も力を入れている事業は、ICJLEの開催です。 ICJLEは日本語教育分野の世界大会としては最大のもので、通常隔年で開催しており、世界各国から1,000名を超える日本語教育関係者が集まり、基調講演、シンポジウム、300件以上の発表が行われます。
今回は、アメリカ、ウィスコンシン州のウィスコンシン大学マディソン校を会場として、アメリカの日本語教育の学会 全米日本語教育学会 AATJ と、 カナダの日本語教育の学会 カナダ日本語教育振興会 CAJLE が共同開催主体となりました。 コロナ前にイタリアのヴェネツィアで開かれて以来、6年ぶりの開催でした。
今回のテーマは、Exploring Issues of Diversity and Expertise in Japanese Language Education.「日本語教育における多様性と専門性を考える」。 参加者500名を超える大きな大会でした。参加者は、対面で542名、リモートで155名だということです。 基調講演3本のほか、口頭発表180本、ポスター発表80本、そしてワークショップなどが12の教室やホールで同時に行われた3日間の充実した大会でした。 ICJLE 2024 実行委員長の森純子先生(ウィスコンシン大学)、AATJ会長の森美子先生(ジョージタウン大学)、 CAJLE会長の木村美香先生(ヴィクトリア大学)がリーダーシップを取ってくださり、 さらにAATJ前会長の高見智子先生(ペンシルバニア大学)が、日本の(株)清水建設をはじめとする企業に大会への出展を呼びかけ、 それに伴う多額の援助を集めてくださり、3日間、すばらしい学会となりました。 この学会の後援は、会場校のウィスコンシン大学はじめ、在アメリカ日本国大使館、シカゴ総領事館、国際交流基金ロサンゼルス日本文化センター、 国際交流基金トロント日本文化センター、高円宮日本研究教育センター(カナダ)、そして、(一般社団法人)尚友倶楽部でした。
ウィスコンシン大学マディソン校キャンパスの湖で 参加した院生と教員
とくに尚友倶楽部は優秀大学院生賞を設けてくださり、日本から発表応募して採択された大学院生の中から、すばらしい研究論文を提出した院生数名に授与されました。 専修大学大学院の田村エリカさん(修士課程1年)も受賞者に選ばれました。
専修大学(日本語学コース)から発表に参加したのは、以下の教員と院生です。
- 教員:
- 八田直美(共同発表:西野藍(ICU)、坪根ゆかり(大阪観光大)「タイ日本語教員養成課程卒業生のキャリア形成 ―教員と通訳への径路が交差する統合TEM図―」
- 王伸子(共同発表:松田佑貴(修士課程1年))「ボイスミラーリングを取り入れた日本語音声教材とウェブサイト公開」
- 院生:
- 戸田隼介(博士後期課程1年)「日本語学習の入り口としての相撲」
- 田村エリカ(修士課程1年)「アニメの影響を受けた日本語に違和感があるのはなぜか ―音声表現に着目して―」
学会とは
「学会に参加する」「学会で発表する」など、聞いたことがあると思いますが、学会とは何でしょうか。 学術に関する学会は、学術的な新しい発見、研究成果を発表するための場です。 誰もが自由に発表できるのではなく、その学会の会員になり学会の大会や研究会の発表募集(call for papers)に応募し、審査の結果、採択されると発表する権利が得られます。 審査は論文、またはその要旨(abstract)が対象となります。 以前は研究者だけが応募するものでしたが、近年は、とくに文系の場合、将来の研究者を助成する意味もありますし、 大学院博士後期課程で博士号を取得するためには、こうした発表や論文発表を積み重ねる必要もあり、大学院生の応募が奨励されていることが多いようです。 今回、専修大学大学院文学研究科からも、こうした修士課程、博士後期課程の院生が発表しました。
日本語教育関係の学会 ―日本とアメリカ―
日本語教育関係の大きな学会は、日本では「日本語教育学会」、 日本語学の学会は、「日本語学会」などがありますが、今回の会場はアメリカです。 日本における日本語教育は、そもそもはアメリカでの日本語教育が大きく影響しています。 日本語教育史的には、日本では中世キリシタン文献にあるように、ヨーロッパから来た宣教師の日本語教育や、植民地支配下の台湾や朝鮮半島での日本語教育、 または北米、南米への移民の子孫のための継承日本語教育などがありますが、 現在のような形の日本語教育は、アメリカの構造主義言語学の影響を受けた、アメリカの軍隊による日本語教育、アーミーメソッドなどの影響が大きく、現在に至ります。
アメリカでの日本語教育は、1940年当時の軍事式外国語教育に始まり、戦後、各州でさまざまな日本語教育の活動と試験?評価制度が整い大きな流れとなったようですが、 その中で、高等教育機関(大学)での日本語教育と、中等教育機関(中学、高校)での日本語教育機関が統合され、2012年に「全米日本語教育学会 AATJ」となりました。
アメリカにおける日本語教育は、その初期から言語学的な側面から、理論的にその効果が上がるように設計されており、研究も理論的であることが求められていますし、 現在でも第二言語習得理論や外国語教育教授法など、新しい理論も発表されています。 今回も日本語教育の動向がわかる研究発表が多く、興味の尽きない3日間でした。 多様性がテーマでもありますが、日本語教育と社会との連携、そしてAI関係に取り組んだものが多数、発表されました。 ぜひ、発表プログラムをご覧ください。
ポスター発表の様子(発表者は専大文学研究科文学コースの時田澪さん)
日本語教育に関する研究のこれから
登録日本語教員という国家資格ができた今年度、国家資格という名称が独り歩きしているのか、 日本語学や日本語教育の勉強をしたことがない人たちも、資格を目指して受験準備をしているようです。 これまでの設置目的としては、「専門性を有する日本語教師の質的?量的確保を保証する」ということで、日本語教師の地位が上がるはずなのですが、 即席日本語教師がたくさん出てくるのではないかという懸念もあります。 日本語教育の質を上げるには、現場を経験することも重要ですが、基礎的な研究も進めなければなりません。 この学会の紹介を読んで、興味をもってくださる学部生のみなさんが、今後、研究にも興味を持ってくださったらうれしく思います。 次のICJLEは2026年、台湾で開催されます。